約6600万年前、巨大な小惑星が地球に衝突し、恐竜をはじめとする多くの生物が姿を消しました。
しかし、この壊滅的な出来事は、新たな時代の幕開けでもありました。
その時代こそが「古第三紀(Paleogene Period)」です。
「古第三紀っていつの時代?」「恐竜が絶滅した後、地球はどうなったの?」「なぜ哺乳類が急速に進化できたの?」
このような疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
古第三紀は、約6600万年前から約2303万年前まで続いた、地球史上最もドラマチックな時代の一つです。
恐竜という支配者を失った地球では、哺乳類や鳥類が爆発的に多様化し、現代の生態系の基盤が形作られました。
巨大なワニやヘビが頂点捕食者として君臨し、最初の霊長類が森の中で暮らし始め、クジラの祖先が海へと進出していった時代でもあります。
本記事では、古第三紀の基本的な定義と、その始まりを告げる「大量絶滅イベント」について詳しく解説します。

「Kindle Unlimited」が初めての方は、無料体験で読むことができます
第1章 古第三紀とは何か―定義と名前の由来

1-1 古第三紀の基本的な定義
古第三紀(Paleogene Period)とは、地質時代区分において新生代(Cenozoic Era)の最初の時代であり、約6600万年前から約2303万年前まで続いた期間を指します。
この時代は、中生代(Mesozoic Era)の白亜紀(Cretaceous Period)が終わり、恐竜をはじめとする多くの生物が大量絶滅した直後から始まりました。
古第三紀という名称は英語で「Paleogene」と表記されますが、これはギリシャ語の「palaios(古い)」と「genos(生まれ、起源)」を組み合わせた造語です。
つまり「古い起源の時代」という意味を持ち、新生代の中でもより古い時期の地層や生物相を指す言葉として用いられています。
地質学的な時代区分において、古第三紀は新生代を構成する3つの「紀」のうち最初のものです。
新生代は古第三紀、新第三紀(Neogene Period)、そして第四紀(Quaternary Period)の3つに分けられており、古第三紀はその土台となる重要な時代といえます。
かつては古第三紀と新第三紀を合わせて「第三紀(Tertiary Period)」と呼んでいた時代もありました。
しかし、地質学の発展とともに、この2つの時代には気候、生物相、地質学的イベントにおいて大きな違いがあることが明らかになり、現在では別々の「紀」として扱われています。
国際地質科学連合(IUGS)と国際層序委員会(ICS)が定める公式の地質年代表では、古第三紀は明確に独立した時代区分として認められています。
1-2 古第三紀という名称の歴史的背景
古第三紀という名称が生まれた背景には、地質学の発展の歴史があります。
19世紀初頭、地質学者たちは地球の歴史を地層の積み重なりから読み解こうとしていました。
当時の地質学者たちは、化石の種類や岩石の特徴から、地球の歴史を「一次紀」「二次紀」「三次紀」「四次紀」という4つの大きな時代に分類しました。
このうち「三次紀」は、恐竜が絶滅した後から人類が出現する前までの時代を指していました。
しかし、研究が進むにつれて、この三次紀の中にも大きな環境変化や生物相の転換があることがわかってきました。
そこで20世紀に入り、三次紀は「古第三紀」と「新第三紀」に細分化されることになったのです。
「古」と「新」という接頭辞は、それぞれの時代の相対的な古さを示しています。
古第三紀の方が時代的に古く、新第三紀の方が新しいという単純明快な命名法が採用されました。
日本語では「古第三紀」と表記しますが、読み方は「こだいさんき」です。
同様に新第三紀は「しんだいさんき」と読みます。
英語圏では「Paleogene」を「ペイリオジーン」のように発音し、学術論文や教科書で広く使用されています。
1-3 地質時代における古第三紀の位置づけ
地球の歴史は約46億年にわたりますが、古第三紀はその中でも比較的新しい時代に位置しています。
地質時代は大きく分けて、冥王代、太古代、原生代、そして顕生代の4つの「累代」に区分されます。
このうち顕生代は、化石として確認できる生物が豊富に存在した時代であり、約5億4100万年前から現在まで続いています。
顕生代はさらに古生代、中生代、新生代の3つの「代」に分けられます。
古第三紀は、この新生代の最初の「紀」として、中生代と現代をつなぐ重要な橋渡しの役割を果たしています。
新生代はしばしば「哺乳類の時代」と呼ばれますが、まさに古第三紀こそが哺乳類時代の幕開けとなった期間なのです。
中生代が「恐竜の時代」であったのに対し、古第三紀以降は恐竜に代わって哺乳類が生態系の頂点に君臨するようになりました。
この劇的な転換は、約6600万年前の大量絶滅イベントによってもたらされました。
小惑星の衝突によって恐竜をはじめとする大型爬虫類が姿を消し、そこに生じた生態学的な空白を哺乳類が埋めていったのです。
1-4 古第三紀を特徴づける要素
古第三紀を他の地質時代と区別する特徴は多岐にわたります。
まず最も顕著なのは、哺乳類の爆発的な多様化です。
白亜紀の終わりまで、哺乳類は主に小型でネズミのような生物が中心でした。
しかし古第三紀に入ると、大型の草食哺乳類、肉食哺乳類、さらには海に進出するクジラの祖先など、驚くほど多様な哺乳類が出現しました。
鳥類もまた、古第三紀において大きな進化を遂げました。
恐竜から進化した鳥類は、恐竜の絶滅を生き延び、古第三紀に入ると様々な生態的地位を獲得していきました。
特に注目すべきは、一部の鳥類が飛行能力を失い、巨大化して頂点捕食者となったことです。
ガストルニスのような恐鳥類は、高さ2メートルを超える巨体で、当時の生態系において重要な役割を果たしていました。
気候の面でも、古第三紀は特筆すべき特徴を持っています。
特に始新世(Eocene Epoch)は、新生代で最も温暖な時期であり、極地にも氷がほとんど存在しない「温室地球」の状態でした。
北極圏にワニやヤシの木が生息していたことからも、当時の温暖さがうかがえます。
一方で、古第三紀の後半である漸新世(Oligocene Epoch)には、気候が徐々に寒冷化し、南極大陸に氷床が形成され始めました。
このように古第三紀は、温暖な気候から寒冷化への転換期でもあったのです。
1-5 古第三紀研究の意義
古第三紀の研究は、現代の地球環境や生態系を理解する上で極めて重要な意味を持っています。
まず、大量絶滅後の生態系回復プロセスを知ることができます。
恐竜を絶滅させた小惑星衝突は、地球史上最も壊滅的な環境破壊の一つでした。
しかし、地球の生態系は古第三紀を通じて見事に回復し、多様性を取り戻しました。
このプロセスを研究することで、現代の環境問題に対する示唆を得ることができます。
また、古第三紀の気候変動は、現代の地球温暖化を理解するためのアナログとして注目されています。
始新世の「温室地球」状態は、大気中の二酸化炭素濃度が現在よりもはるかに高かった時代です。
この時代の気候データと生態系の反応を分析することで、将来の気候変動が地球に与える影響を予測する手がかりが得られます。
さらに、古第三紀は私たち人類の遠い祖先が出現した時代でもあります。
最初の霊長類は古第三紀の森林で暮らしており、その後の進化が最終的に人類の誕生につながりました。
古第三紀の霊長類化石を研究することは、人類の起源を探る上で欠かせない作業なのです。
第2章 古第三紀の始まり―白亜紀-古第三紀境界と大量絶滅
2-1 K-Pg境界とは何か
古第三紀の始まりは、地球史上最も劇的なイベントの一つによって画されています。
それが「白亜紀-古第三紀境界」(K-Pg境界、旧称K-T境界)です。
「K」は白亜紀を表すドイツ語「Kreide」の頭文字であり、「Pg」は古第三紀「Paleogene」の略称です。
この境界は約6600万年前に位置し、中生代と新生代、つまり「恐竜の時代」と「哺乳類の時代」を分ける明確な線として機能しています。
世界中の地層において、K-Pg境界は薄い粘土層として認識できます。
この粘土層には、地球では極めてまれな元素であるイリジウムが異常に高い濃度で含まれています。
イリジウムは小惑星や隕石に豊富に含まれる元素であり、この「イリジウム異常」が後に小惑星衝突説の決定的な証拠となりました。
K-Pg境界層からは、衝撃石英やマイクロテクタイトなど、巨大な衝突を示す他の証拠も発見されています。
衝撃石英は、極めて高い圧力でのみ形成される変形した石英結晶であり、通常の地球上の地質プロセスでは生成されません。
2-2 チクシュルーブ衝突イベント
K-Pg境界の大量絶滅を引き起こした原因は、現在のメキシコ・ユカタン半島付近への巨大小惑星の衝突であったことが科学的に確立されています。
この衝突によって形成されたクレーターは「チクシュルーブ・クレーター」と呼ばれ、直径約180キロメートルという巨大なものです。
衝突した小惑星は直径約10〜15キロメートルと推定されており、富士山よりも大きな岩塊が時速約7万キロメートルで地球に激突しました。
衝突のエネルギーは、広島型原子爆弾の100億倍以上に相当し、地球史上最大規模の単一イベントの一つでした。
衝突の瞬間、衝撃波が地球全体を駆け巡り、衝突地点では超高温の火球が大気圏に広がりました。
膨大な量の岩石蒸気と塵が大気中に放出され、地球を暗黒に包み込みました。
衝突地点がちょうど浅い海域の石灰岩と硫酸塩を含む地層であったことも、被害を拡大させた要因です。
これらの岩石が蒸発することで、大量の硫酸塩エアロゾルが大気中に放出され、太陽光を遮断する効果が長期間続きました。
2-3 大量絶滅のメカニズム
チクシュルーブ衝突は、複合的なメカニズムを通じて地球の生物相に壊滅的な打撃を与えました。
まず、衝突直後には「衝撃冬(インパクト・ウィンター)」と呼ばれる状態が発生しました。
大気中に浮遊する塵と硫酸塩エアロゾルが太陽光を遮断し、地表に届く光エネルギーが急激に低下しました。
光合成が阻害されたことで、陸上・海洋の植物プランクトンから始まる食物連鎖が崩壊しました。
気温も急激に低下し、熱帯地域でさえ氷点下になったと推定されています。
この寒冷化は数ヶ月から数年間続いたと考えられています。
一方で、衝突直後には火球の熱放射によって、広範囲で森林火災が発生しました。
地球上の植物の約70%が焼失したという推定もあります。
さらに、大気中に放出された硫酸塩は酸性雨となって地表に降り注ぎ、陸上・淡水の生態系に追加的なダメージを与えました。
海洋では、表層水の酸性化によってサンゴや貝類などの石灰質の殻を持つ生物が大きな被害を受けました。
このような複合的なストレスにより、全生物種の約75%が絶滅したと推定されています。
2-4 絶滅した生物群

K-Pg境界の大量絶滅で最も有名な犠牲者は、もちろん恐竜です。
鳥類以外の全ての恐竜が、この絶滅イベントで姿を消しました。
ティラノサウルス、トリケラトプス、ブラキオサウルスなど、1億6000万年以上にわたって地球を支配してきた恐竜は、地質学的には一瞬ともいえる短期間で絶滅しました。
しかし、絶滅したのは恐竜だけではありません。
海洋爬虫類であるモササウルス、プレシオサウルスなども完全に絶滅しました。
翼竜も同様に姿を消し、空を支配する大型爬虫類は存在しなくなりました。
海洋においては、アンモナイトが完全に絶滅しました。
アンモナイトは古生代から中生代を通じて繁栄した頭足類であり、その渦巻き状の殻を持つ化石は非常に有名です。
しかし、K-Pg境界を超えて生き延びたアンモナイトは1種もいませんでした。
海洋プランクトンの多くのグループも大きな被害を受けました。
特に石灰質の殻を作る有孔虫や円石藻の多くの種が絶滅し、海洋生態系の基盤が崩壊しました。
2-5 生き延びた生物群
大量絶滅を生き延びた生物には、いくつかの共通した特徴がありました。
まず、体サイズが小さいことが生存に有利に働きました。
大型動物は多くの食物を必要とするため、食物連鎖が崩壊した環境では生存が困難でした。
一方、小型動物は少ない食物で生存でき、種子、昆虫、死体などを食べて衝撃冬を乗り越えることができました。
地下や水中で生活する能力も生存に寄与しました。
穴を掘って地下に潜る哺乳類、水中で生活するワニやカメ、土中で越冬する両生類などは、地表の極端な環境変化から保護されました。
哺乳類は、K-Pg境界を生き延びた代表的な生物群です。
当時の哺乳類は主に小型でネズミのような生物であり、夜行性で雑食性という特徴を持っていました。
これらの特性は、暗黒と食物不足の環境を生き延びるのに有利でした。
鳥類も絶滅を免れた重要なグループです。
ただし、全ての鳥類が生き延びたわけではなく、より原始的な鳥類の多くは絶滅しました。
生き延びたのは主に小型で、種子食や雑食性の種であったと考えられています。
ワニやカメなどの爬虫類も生き延びました。
これらは水中で生活し、長期間絶食できる能力を持っていたため、危機を乗り越えることができました。
2-6 生態系の回復
大量絶滅直後の地球は荒涼とした世界でした。
しかし、地球の生命力は驚くべきもので、比較的短期間で生態系は回復し始めました。
衝突から数年から数十年後、シダ類が最初に回復した植物群でした。
K-Pg境界層の直上には「シダ胞子スパイク」と呼ばれる、シダの胞子が異常に多い層が世界中で見つかっています。
これを契機に被子植物が回復し、動物たちもそれに続いていきました。
【続きは完全版で】哺乳類の爆発的進化、そして「温室地球」の謎へ
ここまで、古第三紀の始まりである「恐竜絶滅イベント」について詳しく見てきました。
しかし、古第三紀の真のドラマはここからが本番です。
絶滅を生き延びたネズミのような小さな哺乳類たちは、いかにして地球の支配者へと駆け上がっていったのか?
そして、地球はなぜ現在よりもはるかに暑い「温室状態」になり、北極圏にワニが住むような環境になったのか?
完全版の「古第三紀完全ガイド」では、以下の内容をさらに徹底解説しています。
完全版の主な内容
暁新世・始新世・漸新世の詳細区分:それぞれの時代で何が起きたのか?
「温室地球」の衝撃データ:北極圏の森と、突然の温暖化イベント「PETM」の正体とは?
大陸移動とヒマラヤの誕生:インドがアジアに衝突した決定的瞬間。
哺乳類の驚異的な進化:
陸から海へ戻ったクジラの祖先「パキケトゥス」
史上最大の陸生肉食獣「アンドリューサルクス」
私たち人類の祖先「初期霊長類」の登場
巨大有孔虫「貨幣石」の謎:ピラミッドの石材になった生物の正体。
メタセコイアの森と草原の出現:植物相の劇的な変化が動物の進化をどう変えたか。
恐竜がいなくなった後の地球で繰り広げられた、生命の壮大な復活劇。
その全貌を知りたい方は、ぜひ完全版をお手にとってご覧ください。
さらに深掘りし、古第三紀を網羅した『完全版』はこちら

「Kindle Unlimited」が初めての方は、無料体験で読むことができます
関連記事を読むことで、さらに地球史を深く知ることができます。



コメント